【出典】K. Shibahara, S. Nishino, H. Matsunami, “Metal-oxide-semiconductor characteristics of chemical vapor-deposited cubic-SiC,” Japanese Journal of Applied Physics, 23 (1984) L862–L864. DOI: 10.1143/JJAP.23.L862
Si(100)基板上に成長した3C-SiCには、APD(Anti-Phase Domain)が形成され、その境界であるAPB(Anti-Phase Boundary)が結晶欠陥として残るという問題があった。 1986年の Journal of Crystal Growth 論文では、Si(100)上に成長した3C-SiCの表面形態とAPDとの関係を検討し、Si基板表面の原子ステップの高さにより,APD(Anti-Phase Domain)が発生しない場合と発生する場合が存在することを提案した。
【出典】K. Shibahara, S. Nishino, H. Matsunami, “Surface morphology of cubic SiC(100) grown on Si(100) by chemical vapor deposition,” Journal of Crystal Growth, 78 (1986) 538–544. DOI: 10.1016/0022-0248(86)90158-2
2.オフ基板とAPD-free 3C-SiC成長
1986年、芝原らは、APD(Anti-Phase Domain)の発生がSi基板表面の原子ステップに関係すると考え、適切なオフ角をもつ基板上で2原子層高さのステップが形成されれば、APDのない3C-SiC成長層が得られると予測した 芝原らはさらに、オフ方向とオフ角(off directionとoff angle)を系統的に調べるため、球面研磨したSi(100)基板を用いて成長実験を行った。 Si(100)面ジャスト付近ではAPDに由来する表面モフォロジーが見られるのに対し、(100)面から[011]方向へオフした部分では、より平坦でAPDのないSiC層が得られることを初めて見いだした。 この現象が、SiC成長層中におけるAPD発生の有無によることを結晶学的に解明した。1 この研究は1986年2に「Si基板上へのSiCヘテロエピタキシャル成長」として報告され、翌1987年には、“Antiphase-domain-free growth of cubic SiC on Si(100)” として Applied Physics Letters に発表された。3
【出典】芝原健太郎、西野茂弘、松波弘之「Si基板上へのSiCヘテロエピタキシャル成長」『日本結晶成長学会誌』13巻4号 (1986) 4226–232. DOI: 10.19009/jjacg.13.4_226 【出典】K. Shibahara, S. Nishino, H. Matsunami, “Antiphase-domain-free growth of cubic SiC on Si(100),” Applied Physics Letters, 50 (1987) 1888–1890. DOI: 10.1063/1.97676 【関連文献】K. Shibahara, S. Nishino and H. Matsunami, “Heteroepitaxial growth of antiphase-boundary-free cubic SiC(100) single crystals on Si(100),” Proc. Mat. Res. Soc., 97 (1987) 183–188. DOI: 10.1557/PROC-97-183
3.反転型SiC MOSFETの動作実証
(100)面からオフカットされたSi基板とその上に成長させたAPD-free 3C-SiCは、デバイス作製に用いられた。 芝原らは1986年、Si上に成長した3C-SiCを用いて反転型nチャネルSiC MOSFETを作製し、その動作を実証した。5この成果は、世界初の反転型SiC MOSFETとして、SiCデバイス研究における画期的な成果となった。6 芝原はこの成果を、1986年のSSDM Late News、IEEE Electron Device Letters、さらに1987年4月に米国アナハイムで開催されたMRSで発表した。7 また、当時すでに100 cm²/Vsを超えるチャネル移動度が報告されている。8
【出典】K. Shibahara, T. Saito, S. Nishino, H. Matsunami, “Inversion-type N-channel MOSFET Using Antiphase-domain Free Cubic-SiC Grown on Si(100),” Extended Abstracts of the 18th International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM 1986), Tokyo, pp. 717–718. 【出典】K. Shibahara, T. Saito, S. Nishino, H. Matsunami, “Fabrication of Inversion-Type n-Channel MOSFET’s Using Cubic-SiC on Si(100),” IEEE Electron Device Letters, 7 (1986) 692–693. DOI: 10.1109/EDL.1986.26522 【出典】K. Shibahara, T. Takeuchi, T. Saitoh, S. Nishino and H. Matsunami, “Inversion-type MOS field effect transistors using CVD grown cubic SiC on Si”, Proc. Mat. Res. Soc., 97 (1987) 247-252. DOI: 10.1557/proc-97-247
1986年4~5月頃には、芝原から黒田氏へ、6H-SiC基板上へのSiC気相成長で3C-SiC双晶とモザイク状表面が形成されることを報告したV. J. Jenningsらの論文が紹介された。その際、6H-SiCジャスト基板にも少数存在する原子層ステップによって、ABCとACBという2種類の3C-SiC積層構造が発生し、双晶になりやすいのではないかという考えも芝原から示された。 これを受け、黒田氏は成長膜を調べ、成長層が双晶であることを確認した。この結果は、黒田、芝原、西野、松波の連名で1986年秋の応用物理学会に発表された。
この段階でも研究は、6H-SiC基板上への3C-SiC成長であった。しかし、成長条件を変えても良好な結晶が得られず、黒田氏は、芝原との議論を通じて、成長条件だけでなく基板そのものにも工夫が必要と考えるようになり111986年6月頃には、複数の基板加工法が検討され、その一つとしてオフ基板を用いる実験が計画された。12 この着想には、GaAs on Siに加え、芝原らがSiC on Siヘテロエピタキシャル成長で実際に用いていたオフ基板の知見が直接参照されたものであった。13
この研究成果が発表された1987年のSSDMの論文14は、その導入部で、Si基板上3C-SiC成長に関する先行研究との関係を次のように明記している。 “Recently, we found that off orientation of Si(100) substrates was effective to eliminate antiphase domains.” (「最近、Si(100)基板をオフ方位にすることが、アンチフェーズドメイン(APD)を除去するのに有効であることを見いだした。」) 引用されている文献には、芝原らによる1986年の Journal of Crystal Growth 論文、1987年の Applied Physics Letters 論文、さらに1986年SSDMにおける反転型SiC MOSFETの発表が含まれている。15 つまり、1987年のSSDM論文自身が、Si(100)基板上3C-SiCにおけるAPD、原子ステップ、off orientationに関する先行研究を、その研究背景として明確に位置づけている。
【出典】N. Kuroda, K. Shibahara, W. Yoo, S. Nishino, H. Matsunami, “Step-Controlled VPE Growth of SiC Single Crystals at Low Temperatures,” Extended Abstracts of the 19th Conference on Solid State Devices and Materials, Tokyo (1987), pp. 227–230. DOI: 10.7567/SSDM.1987.C-4-2[1987年SSDM論文(全文)]
1987年のSSDM論文 “Step-Controlled VPE Growth of SiC Single Crystals at Low Temperatures” は、黒田尚孝、芝原健太郎、W. Yoo、西野茂弘、松波弘之の連名で発表され、口頭発表は芝原が行った。16 黒田氏は、6H-SiC基板上への3C-SiC成長の実験を担当し、基板の加工やオフ角の付与など実験上の工夫を行った。一方、芝原は、自身のSiオフ基板上3C-SiC研究を背景に、原子ステップや積層構造について黒田氏と継続的に議論し、結晶成長から評価法まで研究を直接指導した。黒田氏自身も、修士課程2年間にわたり芝原から研究指導を受けたことを回想している。17
芝原健太郎は1987年、京都大学に博士論文“Epitaxial Growth of SiC by Chemical Vapor Deposition and Application to Electronic Devices”を提出した。論文は、Si基板上への3C-SiC成長から電子デバイスへの応用、さらに6H-SiC基板上の成長へと進む研究を体系的にまとめている。18 第II章ではSi基板上への3C-SiCのCVD成長、第III章ではoff-oriented substrate上の成長とAPDの観察・除去が扱われている。続く第IV章では成長層の電気的特性と不純物ドーピング、第V章では3C-SiC成長層へのイオン注入とpn接合ダイオード、MOSFETへの応用が論じられている。さらに第VI章では、6H-SiC(0001)基板上のCVD成長、polytypeの同定、Schottkyおよびpn接合ダイオードの作製へと研究が進められている。
2005年、 “Step-Controlled VPE Growth of SiC Single Crystals at Low Temperatures” は、SSDM Awardを受賞した。 その後も、この研究成果は京都大学から発表され世界へ発信された。松波弘之教授は、ステップ制御エピタキシーをはじめとするSiC技術の発展と普及に長く尽力した。 ステップ制御エピタキシーは、高品質SiCの結晶薄膜成長を可能にし、SiCパワーデバイスの実用化への道を開いた技術である。その後の材料・デバイス技術の進展を経て、今日では電気自動車やデータセンターなど幅広い用途で利用されるSiCパワーデバイスを支える基盤技術となっている。
この成果について、1987年MRS論文では、反転型nチャネルMOSFETについて “inversion mode operation was confirmed for the first time” と記されている。 松波弘之教授はこの1986年のSi上3C-SiCを用いたMOSFETを「世界初」とし、Cree Inc.創始者の一人Dr. Palmourも芝原健太郎を世界初のSiCのMOSFETを提示した人物として強く認識していた旨を2011年に記している。→松波弘之による芝原健太郎のSiC研究に関する回顧また後年、この成果は「世界初の反転型SiC MOSFETとして当該分野の大きなマイルストーン」と評価されている。↩︎
上の注にある松波弘之による回顧には、芝原が1986年のSSDM、IEEE Electron Device Letters、1987年4月の米国アナハイムMRSでこの成果を発表した経緯が記されている。↩︎
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